弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

箱根駅伝賛歌

毎年、年明け一番のお楽しみは、箱根駅伝である。百年近い歴史を刻んできた、この日本一有名な駅伝競走は、毎年いくつものドラマティックな展開があり、約六時間の長丁場、片時も目を離せない。私は普段からあまりテレビを見ないが、箱根駅伝だけは、往復全てライブ観戦する。こんなにテレビの前に釘付けになる十二時間は、これからもないだろう。箱根駅伝は、正式には「東京箱根間往復大学駅伝競走」という。そもそもこの駅伝競走は、関東甲信越の大学のみ参戦する、地方大会のひとつであるが、テレビで全国放送されるようになった三十年前から、人気沸騰しはじめたらしい。今や駅伝の代名詞ともなり、新春の風物詩となっている。近年は、箱根駅伝燃え尽き症候群などど言われたりして、その開催自体に賛否両論あり、不要論まであるというが、私としては、この偉大な大会を今後もつないでいってほしいと思う。若人が純粋で逞しく、満身創痍となりながらも、死に物狂いで先輩から後輩へ、後輩から先輩へと襷をつなぐ姿は美しい。私は見るたびごとに感動する。監督は、走者の背後から的確に指示を出し、叱咤激励しながら導く。師と弟子とは何たるかを、体現して見せてくれている。そこには甲子園と並ぶ、本物のスポーツマンシップがある。

出雲駅伝全日本大学駅伝箱根駅伝の三レースは、「大学三大駅伝」と呼ばれる。そして、同じ年度の全大会に優勝すると、「三冠」と称される。徐々に距離が長くなってゆくところは、競馬のクラシック三冠競走(皐月賞日本ダービー菊花賞)のようで、競馬も楽しむ私などには、そういうところも興味深い。三冠のコースも良い。出雲、伊勢、東海道と、歴史浪漫溢れる風景を、颯爽と走り抜けるのだから、それだけでも見ていて気持ちが良いものだ。これまで、大東文化大学(1990年度)、順天堂大学(2000年度)、早稲田大学(2010年度)の三校が三冠を達成しているが、先に述べたように、箱根駅伝は全国大会ではないため、関東学連加盟校以外の大学は、三冠を達成することはない。また大東文化大学は復路優勝を、順天堂大学早稲田大学は往路優勝を逃しており、箱根駅伝完全優勝しての三冠を達成した大学は一校もない。三冠が、いかに高き高き壁であるのかが知れよう。今年、往路三連覇の青山学院が、復路も制して総合優勝を果たせば、史上初の三冠完全制覇ということになる。優勝だけではない、熾烈なシード権争いも見もので、最後まで目が離せない。

大学三冠の中で、他の二冠は全国大会なのに、箱根駅伝がもっとも人気があるのは、やはり往路、復路を二日かけて走るからであろう。そして、二日間十区には、様々な展開、ドラマがある。それはいかにも日本人が好む、大河ドラマなのである。箱根駅伝はそのコース、そして全十区の距離配分が絶妙だと思う。時々コースや区間の距離変更があるものの、概ねは変わりない。いつも大会終了後に様々な問題点を炙り出して、常に学生選手のことを考えて、計画、運営されている。だから、これからも箱根駅伝は進化し続けることだろう。こういうところにも、私は賛辞を送りたい。各校のエースが投入される二区は「花の二区」と呼ばれるが、私としては何といっても、最大の見所は、文字通りの山場たる五区である。これぞまさしく箱根駅伝といえる、全区間最大の難所で、今年から再び距離短縮されたとはいえ、小田原中継所から国道一号最高地点まで、標高差864メートルを一気に駆け上がり、そこから芦ノ湖までの約4キロは少しずつ下りとなるのだから想像を絶する。天下の険を、あのスピードで走るなど、人間やろうと思えば何でもできるものだと、痛感させられる。これまで、数々の名勝負が繰り広げられてきたのも、山登りの五区であり、ここで一気に形勢逆転することもよくある。五区では、これまで三人の「山の神」と称号されるランナーも現れた。世の中、何でも神という風潮になって久しいが、近頃は何でもかんでも「神」呼ばわりしすぎではないか。本当に「神の無駄使い」だと思う。いくら八百万の神々のおわす日本の国とは云え、乱発しすぎである。山川草木や動物たちには神は宿るが、地球上でもっとも汚らわしい人間には、そんなに簡単に神様は降りて来ないと思うのは、私だけであろうか。人間は一番穢れているからだ。人間には、神よりも鬼や夜叉が相応しい。でも、箱根路には間違いなく、数年に一度「山の神」が現れる。天下の険を、直向きに、無邪気に走る者に、神は降臨するのである。私にとっては五区こそが、箱根の花である。

いよいよ、今日は復路だ。往路優勝青山学院と、二位の早稲田大学の差はわずかに33秒。青学セーフティリードの昨年とは、大きく違う展開になるであろうし、とても見応えのある、手に汗握る復路になることは間違いあるまい。追われる青学か、追う早稲田か。はたまた、第三の大学の漁夫の利が見られるのか。今の時点ではまったく予想がつかぬが、私個人としては、やはりどうしたって、青山学院の三連覇と、史上初の三冠完全優勝達成をこの目で見たい。こんな機会はそうそうないのだから、是非とも見てみたい。神は山だけでなく、駆け抜ける選手全員に降臨することを、心から祈念している。箱根駅伝万歳。