弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

青春譜〜viva クラリネット〜

目論見通りにクラリネットへのパート替えを果たした中一の私。トランペットの時は休みがちであった練習に、嘘のように打ち込むようになった。人数の多い吹奏楽部のクラリネットパートは大集団である。当時中学の吹奏楽部は、クラリネットパートだけで総勢二十名近くいた。私以外は全員が女子であった。が、私は意に介さずに練習に励んだ。憧れのクラリネットが吹けるだけで、存分に幸せであった。私が水を得た魚の心持ちを知ったのは、あの時が初めてであった。青春を賭けた私の吹奏楽は、ここからが始まり。

当時クラリネットパートのリーダーT先輩は、生徒会役員、成績優秀な正統派美人で、誰もが一目置く存在であった。後輩の面倒見もよく、誰からも慕われた。クラリネットも中学生にしては確かな腕前で、私は尊敬していた。太く柔らかい音色。女性らしいまるく優しい音がした。私の当面の目標はT先輩であった。T先輩の様に吹けるようになりたいと思った。

吹奏楽では合奏する際、指揮者をセンターに最前列はクラリネット、二列目は左からピッコロ、フルート、オーボエ、右にサックスやバスクラファゴットなどが続く。その後ろにホルン、ユーフォニアム、最上段にトランペット、トロンボーンが並ぶ。正面右手奥にチューバ、弦バス。左手奥がパーカッション。この並びがオーソドックスであるが、編成によっては最前列にピッコロ、フルート、オーボエ。二列目にクラリネットが勢揃いし、三列目からサックスというパターンもある。さらには、最後方にパーカッションが陣取ることもある。私は、中学ではこのパターンで、高校では最前列がクラリネットであった。管弦楽と同じく吹奏楽も指揮者をセンターに、左手が高音、右手が低音というパターンが一般的である。人数や音の鳴りを指揮者が考えて決めている。 一定の人数が揃った吹奏楽は各パートで、異なる譜面を奏でる(その限りではない楽器や編成もある)。

クラリネットは主に高音域を担当しメロディとハーモニーを奏でる1st(ファースト)、中音域を担当しメロディとハーモニーを奏でる2nd(セカンド)、低音域を担当しメロディやハーモニーさらには伴奏を奏でる3rd(サード)に分かれる。それぞれに大切なパートを任されており、優劣はないが、花形はやはり1stであり、クラリネットパートの誰もが憧れるのは1stであろう。T先輩は1stであった。T先輩の演奏を間近で見たのは、一年生の吹奏楽コンクール県予選であったが、音色、運指スキルの高さは傍目からでもよくわかり、私は食い入るように見入った。そしてクラリネットを吹きたい気持ちは、抑えられない気持ちとなったのである。私は3rdから始まり、二年生で2nd、三年生のコンクールから1stになった。重ねて言うが、1st、2nd、3rdに優劣などない。しかしやっぱり1stを託された時は、うれしくてたまらなかったし、同時にクラリネットパートを率いている責任を感じた。この様な経験を経て、人は少しずつ社会の片鱗を覚え、処世を学ぶのである。私にとって吹奏楽は、ただ青春の一頁のみではないのである。

クラリネットは、オーケストラでいえば、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリンそしてヴィオラにあたる。1stや2ndも低音で全体の伴奏を奏でることもあるし、3rdも低音域でメロディを奏でるので、いずれもにしても奥深い楽器だと思う。クラリネットは菅の長さにより音域が変わる。その種類も多い。一般的に私たちが目にするクラリネットで、また吹奏楽でも主力となるのはB♭菅=ソプラノクラリネットである。ソプラノクラリネットはB♭菅より1センチ長いA菅もあるが、日本の吹奏楽では概ねB♭菅が一般的。その他にE♭菅=通称エスクラリネット(B♭菅より1オクターブ高い音色が出る)、アルトクラリネットバスクラリネット、水道管の様なコントラバスクラリネットなどがあるが、細かくわければもっとある。

 日本の吹奏楽はプロ集団、自衛隊や警察の音楽隊、アマチュアでは一般、職場団体、大学生、高校生、中学生、小学生に分別される。それぞれが独自のカラー、ハーモニー、スキルを持っており、どの部門もその部門なりの演奏を楽しめるだろう。前にも書いたが、アマチュア団体が目指す吹奏楽の大会は、吹奏楽コンクール、マーチングコンテスト、アンサンブルコンテストの三大大会である。合奏のハーモニー、スキル、表現力を競う最高峰の舞台が全日本吹奏楽コンクールで、まもなく今年も都道府県予選が始まる。ここから十月末の本選まで、長いようで短い。最上級生にとっては尚更である。甲子園を目指す球児と同じく、吹奏楽部も熱い夏が始まった。続く。