弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

青春譜〜木管楽器私総覧〜

吹奏楽において木管楽器は大所帯である。木管楽器は主旋律を奏でることが多く、オーケストラの弦楽器ならば、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロに相当し、無論フルート、クラリネットに同じある。ことにクラリネット、フルート、アルトサックス、テナーサックスは主旋律や副旋律を奏でることが多い。中でもっとも主旋律の出番が多いのがクラリネットであり、さらに1stクラリネットは幅広い音域でメロディを担当する第一ヴァイオリンであろうか。木管楽器が大所帯と云ったが、そのほとんどはクラリネットである。クラリネットについては何度か書いてきたのでくり返しになるが、クラリネットは私が吹いていたB♭菅を中心に、時にA菅やE♭菅、アルトクラリネットバスクラリネット等が吹奏楽では使用される。B♭菅とバスクラリネットはほとんどの吹奏楽部で見られる。B♭菅はクラリネットの主力であり、木管楽器のいや吹奏楽の主力とも云える。私がクラリネットだったから贔屓目でみているわけではない。主旋律すなわち楽曲のメロディを奏でる楽器であるクラリネットは、トランペットやサックスの様に華はない。が、主旋律も副旋律も奏で、楽曲の根幹を支えているのは何と言ってもクラリネットである。クラリネットは基本的に高音、中音、低音の三編成で、1st(ファースト)、2nd(セカンド)、3rd(サード)と表す。吹奏楽部の人数によるが、コンクール等人数制限がある場合は三人ずつか、高音を薄めで、低音を厚めにすることが多い。高、中、低がいずれかの楽器とリンクしてユニゾンすることもあるため、大所帯のクラリネットは楽曲の中でもっとも複雑に絡み合うことしばしばなのだ。異論反論はあると思うが、極めつきの私見として云えば木管楽器の軸はクラリネットであるとしたい。

軸をクラリネットとすれば、さらに高音で微細繊細にハーモニーを奏でるのがフルートやピッコロである。吹奏楽部に入部してくる女子に一番人気はフルートである。果たして今もそうなのかはわからないが、少なくとも私が現役の頃は、入部してパートの希望を聴取する時、フルートは女子のほとんどが挙って希望するので、毎回籤引きになったりした。中学の時は籤がハズレて泣き出す子もいたり、けっこう苦慮したことを思い出す。さすがに高校生にもなれば泣く子はなかったし、高校生は中学生よりもよく考えて選択肢するようになった。或いは中学から経験していれば、そのまま同じ楽器を担当することが一般的でもあった。フルートを吹きたいと願う女子は、だいたいが見た目も実体もお嬢様っぽい。ピッコロはフルートの半分くらいの管で、フルートより1オクターブ高い音が出せる。指使いもフルートと同じで、日本の横笛のように高く鋭い音も出せるのが魅力である。吹奏楽部ではフルートの人気には及ばないが、フルートを落選したら、ピッコロにスライドすることが間々ある。何れにしても、私が中学の頃は、フルートピッコロパートは、いかにも男子禁制、女子の園と云った雰囲気があり、何となく近づき難かったものだ。

フルートパートとは対照的にサックスパートは、木管楽器の中では男子にも人気である。サックスは正式にはサクソフォーンと云うが、今やサックスと呼ぶことが一般的か。ことにアルトサックスや、テナーサックスは音も渋くて、見た目も確かに格好良い。フルートの様に可憐でなくとも華があり、大所帯のクラリネットの様に埋もれることがないサックスパートは男子が憧れる要素が詰まっている。アルトサックスやテナーサックスは演奏のみならず、吹奏する姿、だだストラップを付けて楽器を持っているだけでも絵になる。無論、発する音も魅惑的。マウスピースにリードを付けて奏するので木管セクションに分類されるが、管の材質は真鍮が主で、銀や銅を使用したものもある。塗装はラッカーもしくはメッキ仕上げで、見た目はいかにも金管楽器であるが、奏法も音色もやはり木管楽器である。サックスは木管楽器金管楽器の間の子といったところだろう。吹奏楽部ではアルトサックス、テナーサックスの他、バリトンサックス、他にソプラノサックスを使用することがある。ソプラノサックスはクラリネットとトランペットを合わせたような楽器で、音もクラリネットほど丸くはないが、トランペットほど鋭くもない。実に円やかな音色である。バリトンサックスは大きくて、重量もかなりある。ゆえに男子が担当するのが良いと私は思う。実際、私の同級生の女子はバリトンサックスを吹くことになったが、二ヶ月ほどで首を痛めてしまい、パーカッションに移籍した。成長期の中学生、特に女子にはバリトンサックスやバスクラリネットは過酷かもしれない。サックスパートは、何となく陽気な雰囲気が生まれ、吹奏楽部のムードメイカー的役割を果たすことが多い。私の経験からしても、中学も高校もそうであった。言葉は悪いが、やはり目立ちたがり屋が集まるパートと云えるかもしれない。

木管楽器でもっとも古典的なものがオーボエファゴットである。いわゆるダブルリード式の管楽器で、音色もオーボエは微細妖艶、ファゴットは重厚雄渾な響きである。どちらも構造や吹奏方法からして、さほど大きな音は出せないため、地味な印象で、吹奏楽部員にもはじめは人気がない。楽団によってはファゴットはいない場合も多く、オーボエもいないこともある。が、この楽器はどちらも吹けば吹くほどその魅力に取り憑かれる人もまた多い。先に述べたとおりオーボエファゴットは、管楽器としての歴史は古く、四、五百年前から原型はあり、さらにオーボエ古代ギリシャ時代にも、近い形の楽器があったらしい。また、弦楽器と最初にコラボした管楽器もオーボエの原型だと云われ、吹奏楽で使用される楽器では最古参なのである。オーボエファゴットはすべての木管楽器の原型なのであろう。だからこそ、オーボエファゴットを奏する者は、吹けば吹くほどその味わいと悠久の音色に魅せられて、奥深さにのめり込むに違いない。オーボエファゴットは、目立たずとも、吹奏楽に凛としたエッセンスを数滴もたらしてくれる楽器だと思う。不可思議な魅力がある。読めば読むほど、噛み締めればかみしめるほど面白い古典文学の様な楽器なのである。続。