弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

青春譜〜キング淀工〜

令和元年の全日本吹奏楽コンクールがやってきた。昨日十月十九日が中学校の部、本日十月二十日が高等学校の部である。名古屋センチュリーホールは今年も緊張の戦場であり、涙と笑顔が溢れる熱き歓喜の場となる。此処が青春真っ盛り、一世一代かも知れない。コンクールについては何度も書いてきたので、ここらでコンクール常連の名門校、特に高校の部について少し触れたい。中学も確かに名門校はあり、大人顔負けの素晴らしい演奏をしてくれるが、高校生になればさらにそのレベルは上がり、プロにも遜色ないほどパーフェクトかつ壮大なる表現力で、聴衆を魅了する楽部がある。吹奏楽の名門校(高校の部)は数多。愛工大名電習志野龍谷大平安大阪桐蔭作新学院東海大菅生常総学院などは甲子園でアルプスから盛り上げ、名物にもなっているため有名にもなった。またマーチングの強豪校では京都橘、精華女子、玉名女子などが挙げられるが、愛工大名電大阪桐蔭の様に、吹奏楽コンクールもマーチングコンテストも全国大会常連の強者も最近は増えてきた。強豪校、特に私立の場合は二百人もの部員数を抱える学校もあって、吹奏楽コンクールとマーチングコンテスト、さらには甲子園などの応援、アンサンブルコンテストと、部隊を分けて編成している学校もあると云う。最近は野球も吹奏楽も私立が強いが、即戦力となり得る小中学からの有望な経験者を集めている。強いのも宜なるかなと思う。 年々レベルは強化されており、各校が他校の動向を気にしながら、切磋琢磨している感が昔からある。

中で私が高校吹奏楽界の王と思っているのが大阪の府立淀川工科高等学校である。かつては淀川工業高等学校であったが、平成十八年(2006)に改称された。吹奏楽界、ファンからは通称淀工と呼ばれている。淀工は全日本吹奏楽コンクールで最多の31回金賞を受賞している。正真正銘の王者である。公立校と云うのが良いし、以外にも部員は高校から吹奏楽を始める子もいるというから驚きだし、何とも希望に満ち満ちているではないか。小中ではパッとしなかった子が、淀工吹奏楽部に入っていつか花を咲かせることもできるのだ。淀工吹奏楽部はメディアにも度々取り上げられてきたし、顧問の丸谷明夫先生は厳しく熱く、そして優しく部員たちを鼓舞し導くスーパーコンダクターである。丸谷先生は平成二十五年(2013)より全日本吹奏楽連盟の理事長になられた。日本の吹奏楽界にとって、大変名誉で画期的なことである。今とこの先の吹奏楽界は丸谷理事長が在ればまだまだ躍進するであろう。しかし丸谷先生も御年74歳なので。吹奏楽連盟も淀工も丸谷先生頼みばかりではいけない。先生を継ぐ者もそろそろ現れてくれなければ困る。

そんな丸谷先生が前回の東京オリンピックの開催された昭和三十九年(1964)から五十年にわたり育ててきたのが淀工吹奏楽部である。淀工は丸谷明夫と云う巨人が創り上げ、今や日本の高校吹奏楽部のパイオニアとなって、牽引し続けているのである。吹奏楽男子は淀工に大変な羨望とリスペクトを抱いている。かくいう私も現役時代ずっとそうであったし、引退してからも淀工の吹奏楽コンクールの成績は気にしているほど、偉大な存在なのである。淀工の最大の魅力は迫力ある大音響である。それでいて壮大な表現力があり、細美なハーモニーも奏でる。非の打ちどころがない完璧なる演奏。それはまさに王者にしか成し得ない至高の境地であり、半ば神懸かり的でさえある。王者の王者による王者のための演奏なのだ。ゆえに淀工の音は自信満々で、そこから様々に色を付け、或いは変え、さらには消して、あたかも音で遊ぶかの如くに無限自在。これは個々の基礎、全体の土台、淀工の型と云うものが、きっちりと出来上がっているからに相違ない。いや、寧ろ本来はこの部分さえしっかりしていれば、あとはどうにでもなれるのだ。いかに淀工が不断の努力をしているのか、それは私が歳を重ねるほどにしみじみと解るようになった。丸谷先生の薫陶の賜物であるが、部員諸君は代々それに何とか食らいつき、答えを出してきた。淀工の音は実に雄々しい。私はしばしば高校吹奏楽ベルリンフィルであると思ってきた。カッチリ、キッチリ、スマートでありながら、荘厳なのである。淀工は今は男女共学となり、女子部員(殆ど男子)もちらほらとみかけるが、私の青春時代は完全男子校であった。そういえばベルリンフィルもかつては楽団員は男性のみであった。しかし、淀工の雄々しい演奏は、ベルリンフィル同様に決して変わってはいない。進化しながらも、淀工らしいビッグサウンドは健在である。アマチュア吹奏楽を聴いたことない方は、まず初めに淀工を聴いていただきたい。きっと誰もが心を揺さぶられるであろう。私はそう信じている。全日本常連の淀工はシード権を持っており、地区大会は免除され、関西大会から出場、今年も難なく突破し、本日、第67回全日本吹奏楽コンクールの舞台に立つ。丸谷明夫先生のタクトで。果たして今年は…。続。