弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

多摩丘陵に棲む〜夏極楽〜

梅雨明けの昼下がり、私はまたまた薬師池公園へ出かけた。この時季は、蓮華が盛りを迎えている。薬師池の下には大きな蓮田があって、池一面にびっしりと大賀ハスが植えられている。大賀ハスはハスの権威であった植物学者の大賀一郎博士が、千葉の検見川遺跡を発掘した折に発見した3粒のハスの実が始まりで、シカゴ大学で分析した結果、二千年前のハスの実であることが判明した。大賀博士は発芽を試み、そのうちの一粒が、二千年の眠りから目覚め、見事に発芽して花を咲かせた。それが今や全国に株分けされて、その凛とした風格を魅せてくれる。薬師池公園の蓮田ほど多くの大賀ハスを一度に鑑賞できる場所も珍しいのではないかと思う。それほど見事であった。

 私は蓮が好きで方々で眺めてきたが、昨年までは主に不忍池に出かけていた。あそこも凄いが此処も負けてはいない。夏の暑い陽光を燦々と浴びて、今を盛りに青々と大きな葉を広げて、気高く可憐な花を咲かせている。が、やはり蓮見は午前中に限ると痛感した。蓮の花は昼過ぎには花弁をとじてしまうからだ。この日ももうだいぶ閉じかけていて、一足遅れたのは痛恨。それでも夏空と森の翠と渾然一体となって、この上もない盛夏の風景を存分に堪能できた。さすがに極楽の花。

夏の暑さは苦手だけれど、夏の旬をいただくことは大好きだ。まず夏野菜が好き。胡瓜、茄子、南瓜、トマト、ひととおりいただく。オクラやモロヘイヤも使って夏野菜カレーを作る。また、胡瓜は京都風に揚げと出汁と薄口醤油のみでやさしく炊いて、冷やしていただくのも毎年の定番になった。

京都人は暑い夏を様々な術で乗り切るが、口中より涼を呼ぶことにも長けている。今年も”からし豆腐”を京都から取り寄せた。ご存知の方もいると思うが、からし豆腐は中に海苔に巻かれた和からしが入っていて、豆腐を二つに割って辛子を取り出し、醤油に溶いていただく。 もしくは崩して醤油を少々垂らしても。 ピリッと爽やかなからし豆腐岐阜県が発祥とも云われるが、私はまえに夏の京都でいただいてから夏の味覚のひとつになった。毎年この時季になると食したくなる逸品なのである。

京都からのお取り寄せもう一品は “鱧の皮”。鱧(はも)は、梅雨鱧がもっとも美味いと云う。梅雨の水を飲んで美味しくなるのだそうだ。 この時季の鱧は料理屋では高級だが、鱧の皮は安価で手に入りやすい 。京都では蒲鉾屋とか魚屋で売られている。胡麻油で軽く炒めるのがポイント。胡瓜と胡麻酢で和えればさっぱりといただける。冷やし中華やそうめんにのせてもいける。旬×旬をいただき、元気になる。 “祇園祭”は別名”鱧祭”とも呼ばれる。

この御盆中は秋雨前線が停滞している日本列島。大雨が続いているが、やはり真夏。多摩丘陵もたしかに暑い。入道雲が丘陵の緑によく映える。暑いのは暑いのだが朝夕は23区よりずいぶんと凌ぎやすいのは実感している。蝉時雨が喧しいが、涼しい朝夕や雨上がりにらカナカナカナと蜩も鳴いてくれる。私は夏も好きになりつつある。