少年の頃、端午の節句になると、私は空ばかり眺めていた。こいのぼりが大好きだったから。何故好きだったのか？明確な答えはない。まことに漠然としているが、力強く空を泳ぐこいのぼりに、私も金太郎のように掴まっていたいという想いを抱いていたのではな…

私は中学、高校と吹奏楽部に所属した。私にとっての吹奏楽は、人生でもっとも多感な時を、寄り添うように共に歩いてくれた影のような存在である。思春期、私は己が境遇を逆恨みしかけそうになった。だがそうさせじと、守り育ててくれたのが吹奏楽であった。…

五年前に母の愛犬が死んだ。九年生きたチワワが盛夏に、その秋には十三年生きた柴犬が相次いで逝ってしまった。母はすっかり落ち込んでしまったが、二歳の孫娘と、チワワが死んですぐに生まれた二人目の孫の世話や心配に明け暮れる日々が続き、悲しんでばか…