弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

青春譜〜青春の時~

夏の甲子園、明日はいよいよ決勝。甲子園では各校の応援合戦も見もののひとつ。大応援団の花はやはりブラスバンドで、最近は特集番組が組まれたりするほど、広く認知され注目されている。習志野愛工大名電龍谷大平安などの実力ある吹奏楽部が質の高い爆音で演奏し始めると、地鳴りのような応援のうねりが甲子園球場全体を支配する。野球部と吹奏楽部の切っても切れない縁は、まさに互いの青春そのもの。そのあたりは昨年も書いた(2018/8/の記事参照)ので詳しくは省くが、ブラバンが球児の熱いプレーを盛り上げて、ドラマチックに感動を与えるBGMを提供するのだ。

今年の甲子園はプロ球団のスカウトには不作だと言われているそうだが、そんなことはない。星稜高校には球速150キロを連発する奥川君がいるし、各校個々に好プレーを魅せる選手はさすがに夏の甲子園である。今年もっとも注目されていたのは、惜しくも出場を果たせなかった岩手大船渡高校の佐々木朗希君。佐々木君は160キロ台の豪速球を出せる逸材。今年のドラフト会議でも間違いなく目玉となるだろう。そういえば、岩手県大会の決勝戦で、彼が登板しなかったことが賛否両論になった。結果、大船渡高校は花巻東高校に敗れて、甲子園へゆくことは叶わなかった。大船渡高校の監督は、佐々木君の将来のために、登板をさせなかったと云う。決勝戦を前に少し調子を崩したのか、或いはどこかに不安があったのか。外野の私たちは要らぬ詮索ばかりしてしまうが、常に選手の近くにあって、彼らのメンタルもフィジカルも備に把握されている監督が下した決断は大いに尊重すべきだと私は思う。佐々木君や大船渡高校の面々の気持ちは忸怩たるものであったことは察せられるが、彼らは監督の決めたことが正しいと信じて野球をやっているわけで、それは高校野球においてはどの学校とて同じことである。それこそ彼らのそんな想いが一番大切なのである。その想いを無碍にして、外野が大人がとやかく言うなど、何をか言わんやである。たしかに佐々木君が登板すれば或いは甲子園に行けたかもしれないが、花巻東高校はメジャーリーガー菊池雄星大谷翔平を擁した甲子園の常連校である。佐々木君が強行しても勝てなかったかもしれない。強行して取り返しのつかぬことがあってはいかにも残念。佐々木君にはこれからがある。そのこれからに野球ファンも乗ってゆきたいではないか。あの時の監督の判断が、正しいかったことが証明されると私は信じている。

先日、吹奏楽部の拘束時間についてもニュースになっていた。吹奏楽の甲子園とも呼ばれる吹奏楽コンクールも夏休みから予選が始まるが、コンクールに向けた練習時間が長すぎると批判されていると云う。職場でさえ過重労働がやかましく問題になっている時代、吹奏楽部は夏休みもほぼ毎日朝から晩まで練習漬けの日々。朝早くから夜遅くまで、時には夜11時くらいまで練習するところもあるらしい。これはさすがに論外であるが、私の経験からも、夏休みには朝9時から夜8時くらいまで練習していた。前に書いた通りコンクールは本選までに何度か予選があって、突破すれば休みなく次の大会へ向けて練習が再開される。すなわち本選に近づくほどに厳しい練習となる。本選が全てなのだから、これは当然だと思う。予選で落選すれば少しは休みがあるが、マーチングコンテストや秋の演奏会、地域の祭やイベントへの参加など忙しいのである。ましてや自校の野球部が甲子園に出場となると、さらにハードとなる。吹奏楽部員が100人以上在籍するような大所帯なら、コンクール組、応援組を選抜し分散することも可能だが、それが可能なのはごく僅かであり、ほとんどの学校がどちらにも全力注入する。ましてや甲子園のこのところの応援合戦の盛り上がりが拍車をかけて、さらに彼らに厳しい状況を与えてしまっているように思う。もちろん左に挙げたような状況になる吹奏楽部は一握りである。大半がコンクールは予選落ちして、甲子園にまで応援に行く学校も各都道府県で一校か二校である。それでもネットで話題となるほどであるから、やはりこの休み無し、練習時間の配分については、これからは真剣に考えてゆかねばならないことであろう。

しかし彼らは直向きである。確かに長時間の練習はキツくて辛い。が、吹奏楽部員のほとんどが楽器を奏でることが大好きなのである。中には毎日一分一秒でも長く吹奏し、合奏していたいと思っている者さえいる。かく言う私がそうだった。高校球児が少しでも長くこのチーム、このメンバーで野球がしたいと云う気持ちと同じである。野球部も吹奏楽部も皆想いはひとつなのであり、これが青春なのである。ゆえに私は、一概に練習時間や拘束時間のことを長くても短くても、大人の考え方を彼らに押し付けるべきではないと思う。大船渡高校の決断にしても、監督と部員たちが良ければそれでよく、吹奏楽部の拘束時間についても、部員に委ねても良い。大人は夢溢れ、希望に満ちた彼らを安全に見守り、密かに縁の下で支えてやる。分かりきった話で、ほとんどの保護者や学校はそうしているに違いないが、吹奏楽部出身者としてあえてかく申し上げた次第である。青春の時は短い。ゆえに大人は彼らを最大限に尊重してやりたい。それは経て来た者ならば誰もがわかるはすだ。続。