弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

青春譜〜アンコン〜

吹奏楽連盟が主催する競技会は、夏から始まる吹奏楽コンクール(本戦は秋)、秋から始まるマーチングコンテスト(本戦は晩秋)、そして冬に始まるアンサンブルコンテストで、これが三大大会とされる。此度はアンサンブルコンテストについて。

アンサンブルコンテストは、吹奏楽コンクールやマーチングコンテストが終わり、最上級生が引退をした十二月から予選が始まる。全国大会は三月に毎年会場を変えて全国各地(支部の持ち回り)で行われている。四十二回目となる今年の舞台は札幌コンサートホールKitaraで本日開催される。アンサンブルコンテストは吹奏楽に携わる者にはアンコンと呼ばれたりする。周知のとおりアンサンブルとは重奏のことで、コンテストでは小編成、小合奏にて演奏スキル、ハーモニー、表現力を競い合う。第一回は、昭和五十二年(1977)に開かれた。一編成は三人から八人で、基本的に木管木管のみ、金管金管のみである。木管金管混合と云う編成もあるのか私は知らないが、たとえばクラリネット五重奏など、同楽器同パートのみという場合が最も多い編成ではないかと思う。無論指揮者は立てない。制限時間は五分で、タイムオーバーは失格である。審査は概ね吹奏楽コンクールと似た審査方法で、金賞、銀賞、銅賞で評価される。アンコンを目指す団体、学校は吹コンやマーチングほど多くはないが、各個人やパートの技術力、表現力、そして団結力の向上には、まことに有効な手段である。一月にも書いたが、十二月から新入生が入ってくる四月まで、在部員にとっては己がスキルアップに励む時。オフシーズンにプロ野球選手がキャンプで基礎体力作りから始めて、一年間戦える心技体を培うことと似ている。アンコンはその成果を課題として挑戦できるので、若い人たちはもっと積極的にチャレンジしてほしい。

 私がクラリネットの演奏をライブで聴いたのは、高校生の従兄弟が出場したアンサンブルコンテストであった。朧げな記憶であるが、確か小学一年か、二年であったと思う。クラリネット三重奏か五重奏で、従兄弟は1stであった。余談だが、私の親戚はブラスバンド経験者が多い。妹はマーチングコンテスト常連校のトロンボーン、一つ上の従兄弟はパーカッション、一つ下の従姉妹がクラリネット、そして我らの先駆けが私がアンコンを見に行った歳の離れた従兄弟で、その嫁さんもやはりクラリネットである。私には子供はいないが、吹奏楽経験者の従兄弟の子や、吹奏楽経験のない従姉妹の子供達も今では中高で吹奏楽部に在籍しているらしいので、その気になれば一家で楽団ができるかもしれない。実際、昔、我らがバリバリの現役時代はよく親戚で集まってアンサンブルしたものであった。音楽一家と云うほど大げさなモノではないが、他にもヴァイオリンやピアノに達者な者や、和太鼓を嗜む親戚もいたりする。存外楽器を演奏したり、皆でカラオケ大会をしたりと、歌や音楽が好きな一族ではある。話を戻すが、年長の従兄弟のアンコンは少人数ゆえの、まことに緊張感溢れるステージであったことは鮮明に覚えている。私が見に行ったのは地区大会だろうが、確か金賞であった。演奏スキルとか曲目は知らない。が、あの張り詰めた空気を、切り裂く一音は、どの音と特定できずとも、今も耳に残っているのである。初体験とは大きいものだ。幼い私に強烈な印象を残した。 それが成長した私を吹奏楽の舞台へと誘うきっかけのひとつとなった。

残念ながら私はアンコンに出場出来なかった。クラリネット五重奏で校内予選に挑み、最終予選まで残ったが、我がクラリネットパートは出場見送りとなり、金管五重奏が地区大会へ出場、九州大会まで駒を進めた。私のクラリネットのレベルが知れようが、全日本アンコンに出場するチームなどは、まことにプロ級の演奏する。彼らくらいのレベルならば、中にはいずれプロのオケや吹奏楽団からスカウトもあるだろうし、あるいはソロアーティストとして活躍する人が生まれるであろう。吹奏楽コンクールの話でも書いたが、アマチュアの大会とはいえ、全日本クラスになると、途轍もない演奏をする人や、チーム、団体があって、まさに神懸かりで聴衆を魅了する。少人数で演奏するアンコンは、吹コンやマーチング以上に、奏者の一人ひとりに注視するため、音もブレスもしっかりと聴こえる。演奏前のあのシンと静まり返った会場の雰囲気はなんとも言えない。奏者も聴衆も緊張はピークに達する。そのしじまを切り裂く一音にすべての魂が込められると言って良いだろう。あの感じはあの場に居合わせないとわからないだろうが、フィギュアスケートの演技前に良く似ている。 いずれにしても、こうした舞台での経験ほど、自身のスキルアップに繋がるモノはなく、何事とも同じく、百の練習より一の本番である。が、一の本番を成功とするには、百千万の練習を要する。これも何事とも同じで、吹奏楽もアンコンもまた然りである。