弧月独言

ここは私の深呼吸の場である。日々の雑感や好きな歴史のこと、旅に出れば紀行などを記したい。

なおすけの古寺巡礼 大雄山

先月まさに錦秋の候、私は大雄山最乗寺に参詣した。私は神奈川県も方々歩いたが、南足柄市に降り立つのは初めて。”足柄山の金太郎”で有名な場所だ。小田原から大雄山線に乗って20分、終点の大雄山からはバスに乗って10分ほどで着くが、周辺はまことに長閑な雰囲気。そしてすぐそばに箱根の嶮が迫って来る。その向こうには富士が大きな頭を出している。足柄は富士が見下ろす町なのだ。足柄峠はちょうど相模と駿河の国境であり、東海道が整備されるよりずっと古くから、交通の要衝であった。

最乗寺の創建は応永元年(1394)で、永平寺総持寺に次ぐ格式を有す曹洞宗の禅寺である。鞍馬や高尾山のように天狗の棲む山との謂れからか、禅寺と云うよりも、修験道の聖地と云う印象が強い。創建に貢献した”道了”という僧が、寺の完成と同時に天狗になり身を山中に隠したと伝承され、”道了尊”とも呼ばれている。この道了に因み、境内には多くの高下駄が奉納されている。

仁王門からの参道約3kmには樹齢500年以上の鬱蒼たる杉並木が続き、あたりは深山幽谷の霊気が充満している。最乗寺は紅葉の名所として名高く、いつか訪ねてみたいと思っていたが、果たして見事であった。境内は広く、ゆったりとしており、気持ちが良い。伽藍と紅葉群が織り成すポリフォニックな景色に見惚れない者はあるまい。奥の院へは354段の急な石段を登るが、此処がこの寺の背骨の様な場所で、寒気と山気と妖気が支配している。此処まで来れば誰もが正気に還るであろう。